空間や時間帯、飲み手、作り手の境界線をボーダーレスにするコーヒーカクテル。いまやバーに限らずカフェでも愉しめ、夜に限らず陽が高い時間から飲むことができる。また、コーヒーを愛する人だけではなく、お酒好きからも注目が高まっている。今回は“家でつくるコーヒーカクテルの提案” “お店で味わえるカクテル”を紹介。コーヒーのプロ=バリスタとお酒のプロ=バーテンダーが考える、コーヒーカクテルの世界を追っていく。
▼第1回「WOODBERRY COFFEE ROASTERS 渋谷店」編
スパイス香る手製コーヒーコーディアルでラテのようなホットカクテルを
コーヒーカクテルをめぐる連載第1回は『WOODBERRY COFFEE ROASTES 渋谷店』のオーナー木原武蔵さんが登場。コーヒーカクテルへの考え方やアプローチ、家で作れるコーヒーカクテルを教えてもらった。
『WOODBERRY COFFEE ROASTES 渋谷店』オーナー 木原武蔵氏
【プロフィール】
1990年生まれ、東京都世田谷区出身。バリスタ・焙煎士。アメリカ留学中にスペシャルティコーヒーの文化に触れる。帰国後、21歳の時にコーヒースタンド『WOODBERRY COFFEE ROASTERS』を開店し、焙煎も自身で手掛けるように。現在は用賀・代官山・渋谷に3店舗を展開。カフェのコンサルティングやバリスタの講師など、コーヒーにまつわる分野で幅広く活躍。「コーヒーで世界をよくする」ことをモットーに、全店の主要食材にオーガニックを採用している。また、従来は産業廃棄物として処分されていたサトウキビの繊維由来のストローや土に還る紙のショップカードなどを使用し、サスティナブルな店づくりを目指している。
50種からわずか1種を厳選。コーヒー豆の特徴を生かしたコーヒーカクテルを提供するロースタリー&カフェ
渋谷駅と恵比寿駅の中程、大通りの喧騒から逃れた、緑の茂る氷川神社へ続く参道に位置する。『WOODBERRY COFFEE ROASTES 渋谷店』スペシャルティコーヒーやオーガニック食材を使った食事、お酒も愉しめるカフェレストランである。
オーナーでありバリスタの木原武蔵さんによると、「おいしい食事と飲み物を追求し、カフェの街と知られるメルボルンにあるようなカフェを追求しています」とのこと。
取り扱うコーヒーはスペシャルティコーヒーのみ。生産者からグリーンビーンバイヤー(生豆のバイヤー)が選んだコーヒーをカッピングし香りや味わいを評価したうえで、きれいな味わいの豆を買い付けている。
その割合は「サンプルが50種あっても、これならお客様に喜んでもらえると感じるのは1、2種ほど」というのだから、まさに“厳選”である。
コーヒーカクテルは10種。とくにシグネチャーカクテルの4種は、レシピや味わいのみならず、見た目にもコーヒー豆の特長をしっかり立たせている。
たとえば、『ゲイシャ フィズ』は、ゲイシャの華やかさを表現したカクテルで、ハイビスカス、レモンで爽やかな酸味や香りを増幅。『赤い果実の柑橘のエスプレッソマティーニ』は、国産ジンをベースに完熟したコーヒーの実を表現。ザクロのリキュールなどとともに無添加・単純濾過の梅酒を複雑に絡ませている。
奥行きの長い店内。入り口にはテラス席とカウンター席、奥にはテーブル席とロースターがある
赤外線バーナー加熱方式の焙煎機。クリーンで甘い仕上げが可能で、浅煎りから深煎りまで対応。
抽出方法の違いで狙ったコーヒーの側面を引き出す。
木原さんのコーヒーカクテルへのアプローチ法を訪ねてみると
「コーヒーには香り物質が500種類もあるというくらい多彩な側面があります。焙煎でコーヒー豆のポテンシャルを100%引き出し、抽出で引き出したい側面を立たせてカクテルに生かしています」
と教えてくれた。
抽出ごとに見えてくる、木原さんのイメージは以下のとおり。
- エスプレッソ……濃度、コク、香りが強く、油分を生かすこともできる。
- ハンドドリップ……香り豊かで、口当たりはさらっとすっきり。明るく軽やかな酸味。
- コールドブリュー(豆を挽き、12時間冷蔵庫で水出し)……ボディ感があり、口当たりが滑らか。トニックウォータ―との相性もいい。
- アルコールでハンドドリップ……濃度はハンドドリップと同様ながら、香りが強く抽出される。簡易的なインフュージョンの効果を得られる。
コーヒーの味がわからなくなってしまわないよう、合わせるアルコールもオーガニックの原料や、ナチュラルな製法のもの、繊細な味わいのものから選んでいる。
自家製コーヒーコーディアルでホームカクテルを愉しむ!余り豆の活用方法も伝授
泡立てた牛乳にすりおろしたオレンジピールが香る、ホットカクテル。
木原さんに自宅でつくれるコーヒーカクテルを教えてもらった。
【木原さんからのコメント】
今回提案するホームカクテルは、手づくりのコーヒーコーディアルと温めた牛乳、ラムのようなお酒のカサーシャを合わせるカフェラテ的なカクテルです。
スパイスの香りはコーヒーの香り成分のひとつで、合わせることで柑橘のニュアンスが立ち上ってきます。スパイスは好きなものを好きな分量を入れて結構ですが、シナモンパウダー、ホールのクローブ、ホールのスターアニスを入れるとバランスがよくなります。
コーヒーコーディアルづくりは一見面倒なように感じますが、アイスにかけたり、ノンアルの飲み物として牛乳割りやソーダ割りにしてもおいしく飲めます。またお菓子づくりにも向いています。冷蔵庫に仕込んでおけばいろんなことに使えて便利ですね。
コーディアルにすると、コーヒー豆の個性が前面に立ちすぎないので、5gずつ余った豆をブレンドすることで、期限の過ぎてしまった豆も捨てずに活用することができます。
〈材料〉
●コーヒーコーディアル
- 好きなコーヒー豆(今回はグアテマラの中煎りを使用)……20g
- 好きなスパイス(*シナモンパウダー、ホールのクローブ、ホールのスターアニスを入れるのがお薦め。今回は他に、ホールのカルダモン、チリパウダー、オールスパイスパウダーを小さじ1ずつ使用)……適宜
- 砂糖……80g
コーヒーコーディアル……50ml
カサーシャ……20ml
牛乳……120ml
オレンジの皮……適宜
〈つくり方〉
①コーヒーコーディアルをつくる。
コーヒー豆を挽いてドリッパーにセットし、お湯200ml(分量外)を注いで少し濃いめに抽出する。約160mlの抽出液ができる。
鍋に、好きなスパイスとコーヒー抽出液、砂糖を加え、弱火で約3分煮詰めてスパイスを抽出する。砂糖の分量は、抽出液の50%がめやす。
完成したコーヒーコーディアルを茶漉しなどで漉して保存容器に移し、冷蔵庫で冷やす。
②グラスでお酒と合わせる。
冷やしておいた①とカサーシャをグラスに注ぎ、ステアする。
③牛乳を泡立てる。
牛乳を温めてミルクフォーマーで泡立て、②に注ぐ。
④オレンジピールで香りづけをする。
オレンジの皮をすりおろして振りかけて、完成!
『WOODBERRY COFFEE ROASTERS 渋谷店』で愉しめるコーヒーの未来を想うカクテル『2080』
シグネチャーカクテル『2080』。ホワイトラム、スーズ、ユリやフェンネルのような香りのメゾンルータン オーキッド・シロップと、カスカラなどを合わせてシェイクしたもの。
次に『WOODBERRY COFFEE ROASTERS 渋谷店』で愉しめるコーヒーカクテルを紹介してもらった。
そのカクテル名は『2080(トゥエンティエイティ)』。名前の由来には、2つの意味があると木原さんは言う。
「60年先の2080年に飲めるような未来的な味わいだということ。そして、2080年はコーヒーの樹が絶滅するかもしれないといわれている年で、それを伝えるためにもこのネーミングにしています」。
リンドウ科の植物、ゲンチアナの根を原料とするリキュール“スーズ”の苦味や、カスカラシロップが生む酸味のある甘さが交わり、植物の根、花、果実を想わせるボタニカルな香りと味わいを生んでいる。
カスカラとは、熟したコーヒーの実の果肉部分を乾燥させたもの。従来は生成段階で取り除かれて捨ててしまわれるものだったが、今はお茶にしたりシロップにしたりと活用されるようになった。
木原さんは、信頼のあるグアテマラの農家からカスカラを買い入れ、砂糖と共に煮だして自家製のシロップをつくってカクテルに生かしている。
「コーヒーを通して環境問題に取り組んで、コーヒーを取り巻く環境をよりよくしたいと思っています。このカクテルにもそんな想いを込めています」
と木原さんが語ってくれた。
コーヒー豆を選ぶところから提供されるまでの各行程に、木原さんのコーヒーの魅力を伝える想いが十分に伝ってくる『WOODBERRY COFFEE ROASTERS 渋谷店』。ぜひその想いを体感しに足を運んでみてはいかがだろうか。
▼お店データ
東京都渋谷区東2-20-18
03-5962-7518
営業時間:月・火 8:30 ~ 18:00 、水~日 8:30 ~ 22:30(L.O.)
※新型コロナウイルスの影響により、営業時間やお休みが変更する可能性がございます。
定休日:無休
アクセス:JR・東京メトロ・私鉄「渋谷駅」より12分
店舗URL: https://woodberrycoffee.com/
▼クレジット&プロフィール
写真:Sonia Cao 文:沼 由美子
Sonia Cao (ソニア・カォ)
コミュニティ デザイナー/フォトグラファー
デジタルエージェンシーにてソーシャルメディアマーケティングの分野で、様々な業界の企業・ブラント・商品とユーザーの間のコミュニケーション強化に関わる仕事を経てから、強いコーヒーとカクテル愛が募り、今はフリーランスとして飲食業界のプロモーション事業に従事。バリスタとバーテンダーの架け橋としても活動。
沼 由美子
ライター/編集者
横浜生まれ、東京住まい。バー巡りがライフワーク。日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧やアルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。