「おいしい」は、自分の中にある。──コーヒーと哲学の交差点、MUI を訪ねて

「難しい」をほどく、MUIの一杯

「コーヒーはちょっと苦手で…」「なんだか難しそうで、入りづらい」 そんな人こそ、まず一口飲んでみてほしい。神奈川県・元住吉の商店街を抜けた先にひっそりと佇むカフェ「MUI」。ここでは、コーヒーにまつわる難しさが、ふわっと溶けていく。

「なんだ、コーヒーってこんなにシンプルでおいしかったんだ」

ここでは、専門知識もこだわりの背景も、いったん置いておいて大丈夫。あるのは、ただ静かで美しい、「とっておきのおいしい」だけ。

店名の「MUI」は、“無為(むい)を為す”という老子の言葉に由来する。 意味は「何もしないことを、あえて選ぶ」

ただし、そこに込められたのは決して「放任」ではない。むしろ「素材や人の本質を信じて、余計な操作を加えない」という、静かで強い意志を感じる選択だ。

この考え方は、コーヒーの在り方だけでなく、MUI全体にやさしく息づいている。

「おいしいかどうか」──それだけでいい。

MUIのオーナー・大沢征史さんは、約20年にわたり焙煎の現場に立ち続けてきた人物。テイスティングしたコーヒーは、のべ40万杯以上にのぼるという。

そんな経歴を持ちながら、彼がたどり着いたのは驚くほどシンプルな答えだった。

「もう惑わされずに、口にしておいしいかおいしくないか。それだけです。」

近年のコーヒー業界では、スペシャルティやカッピングスコアといった専門的な言語が発展し、文化としての成熟が進んでいる。

ただ一方で、飲み手にとっては「言葉」や「ルール」が先行しすぎてしまい、味そのものを自由に感じづらくなっている現状にも、大沢さんは静かに疑問を投げかけている。

「いろんな情報があるけど、口にしておいしいかどうかが全てです。生焼けのパンがおいしくないのと同じように、素材が良ければ自然とおいしい。シンプルな話ですよね。」

「好き」と「おいしい」の間にあるもの

大沢さんは“おいしさ”を単に「好き・嫌い」で語ろうとはしない。

「好きってちょっと危ういんですよ。恋愛でも、好きだと多少の違和感も許容してしまう。判断の正確性に本来好みって入れちゃいけないはずなんです。でも『愛』があれば違う時はちゃんと『NO』が言える。コーヒーも同じです」

MUIの豆は、「好き」と「おいしさ」をきちんと分けて考えられる、信頼できるパートナーが選び抜いたもの。大沢さんは、その豆を焙煎によって“仕上げる”のではなく、余計な手を加えず、素材が持つ味わいをそのまま引き出すことに専念している。作為を控え、欠点豆を丁寧に取り除いている。

「こだわりがすごいって言われることもあるけど、自分としては当たり前のことをしているだけなんです。ジューススタンドで傷んだ果物を除くのと一緒。アピールすることでもないんです。」

感情にも、主観にも流されず、ただ誠実に向き合う。大沢さんにとって「愛のある向き合い方」とは、自分の表現を押しつけるのではなく、素材そのものを信じることではないだろうか。

コーヒーという“きっかけ”」──哲学者のようなロースタリ―カフェオーナー

「コーヒーの世界に入ったのは、実はあまりコーヒーとは関係ないんです」

インタビューの中盤で飛び出したこの一言。驚きながらも、その背景に耳を傾けると、大沢さんが大切にしている思想が浮かび上がる。

大沢さんの出発点は、“コーヒー愛”ではなかった。それよりももっと根っこにあるのは、「世の中の“当たり前”に対する違和感」だったという。

「お米だったら、日本米と一括りにはしない。でも、コーヒー豆になると、“コロンビアだから美味しい/美味しくない”って一括りにされがち。それって、ちょっとすごいこと言ってるなって、思いません?」

大沢さんは、こうした社会の中にある言葉や記号の力に、10代の頃から違和感を抱いてきたという。
高校卒業後、料理の専門学校の研修にてイタリアを訪れた。そこで出会ったのが、“バール”という誰でも歓迎されるカフェ文化だった。

「イタリアのバールは、“歓迎されている”って空気なんです。それに比べて日本のカフェや接客文化は、“こうあるべき”が強すぎる気がして 。画一的でそれされて嬉しい?と思うことが多いです。」

その問いは、MUIの空間づくりにも反映されている。

平日の夕方には、常連客や読書にふける人でにぎわい、 スタッフの麻生さんをはじめ、店の雰囲気はどこか包み込むような温かさに満ちている。接客にマニュアルはなく、コーヒーの説明も、専門用語を並べることはない。

MUIに流れるのは、押しつけのない思想と、静かな哲学。
そして、この空間に身を置いた人が、少しずつ「自分自身の感覚」に気づいていく。

「おいしいって、なんだろう?」
「自分が信じてきたことって、本当に“自分の感覚”だったのかな?」

MUIに流れる考え方は、コーヒーに限らず、人生や社会に対する姿勢にも重なってくる。実際に、「MUIのコーヒーをきっかけに、転職を決意した」という人もいるという。

難しく考えなくていい。正解を探さなくていい。そして気づくのだ。難しいと思っていたものも、案外シンプルだったのかもしれない——と。

思い込みから自由になるための、MUIのコーヒー

MUIのコーヒーは、ときに「コーヒーが苦手だったけど、これなら飲めた」と言われる。それは、ただ飲みやすい味、という意味に加えて、「情報や好みに縛られず、自分の感覚で味わっていい」そんな大沢さんの思想が、丁寧に詰まっているからだとも感じる。

もし、あなたが今、何かに疲れていたり、 うまくいかないことがあって立ち止まっていたり、 あるいは、「自分らしさ」がわからなくなっているとしたら——

ぜひ、MUIの扉をノックしてみてほしい。

無理に言葉を探さなくていい。 難しい知識もいらない。 ただ、静かに一杯のコーヒーを飲んでみてほしい。

きっと、「なんだ、こんなにシンプルでよかったんだ」って思えるはず。

MUIは、そうした“気づき”のきっかけをそっと差し出す場所でもあるだろう。

家でも楽しめる、MUIのやさしさ

もし元住吉まで足を運ぶのが難しいなら、ECサイトでコーヒー豆を買ってみて。 

まずはじめに飲んでほしいコーヒーがセットになった「初回限定お試しセット」や、ギフトにも最適なパッケージも用意されているので、自宅で気軽にMUIの一杯を体験できる。

家で、ちょっとだけお湯を沸かして、ゆっくりとコーヒーを淹れてみる。 抽出方法にもこだわりはいらない。

今より少しだけ、自分の感覚にやさしくなれる場所──

それが、MUIなのかもしれない。

店舗情報: MUI 

所在地:神奈川県川崎市中原区木月3-13-2

営業時間:10:00~19:00(定休日:火曜、水曜) 

アクセス:東急東横線元住吉駅から徒歩6分/元住吉駅から436m

MUIのコーヒーは、公式オンラインストアでも購入可能です。 

「初回限定お試しセット」やギフト向けのパッケージも充実。 

▶️ 公式WEB SHOPはこちら https://www.mui-motosumi.co.jp/

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コーヒーステーション編集者
自分ではなかなか難しいコーヒー選びをサポートすること。コーヒー器具の開発、販売を手がける株式会社ハリオ商事自ら、コーヒーの淹れ方やコーヒー豆の選び方などを発信しています。

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