手にしっくりと馴染むマグカップ、焙煎により生まれた美しい褐色。豆を引く音とほろ苦い味わい、そして人々を惹きつける芳醇な香り…。一杯のコーヒーは五感のすべてを楽しませてくれる嗜好品です。カフェから漂うコーヒーの香りに、つい引き寄せられてしまう方も多いのではないでしょうか。
近年の研究によると、コーヒーアロマにはリラックス効果や集中力アップなど、脳機能に影響を与えることが報告されています。コーヒーの香りがもたらす効果と嗅覚の不思議なメカニズム、生活に取り入れたいアロマについて深堀りしてみましょう。
私たちは「匂い」の中で生きている⁉嗅覚の不思議なメカニズム
コーヒーの香りはもちろん、食品や花、柔軟剤など私たちの身の回りには、さまざまな匂いが溢れています。中には思わず顔を背けてしまう”悪臭”も少なくありません。香り・匂い・臭気、私たちは「匂い」の中で生きているといっても過言ではないでしょう。
「匂い」とは低分子の有機化合物です。匂い分子を吸い込むと、鼻の内側の粘膜にある匂い受容体が感知し、匂いの電気信号として脳へ伝えられます。
現在、グレープフルーツアロマによる脂肪細胞燃焼※の促進など、匂いによる生理的効果はある程度、実証されています。一方、香りによる記憶の呼び起こしなど、匂いがもたらす脳への影響すべてのメカニズムは未だ解明されていません。
※ノルアドレナリン分泌による
コーヒーの香りは4変化!含まれる香気成分は800種類
コーヒーは、生豆の香り・焙煎豆を挽いた時の香り・ドリップ時の香り・口に含んだ時の香りの4つに変化します。コーヒーに含まれる香気成分は約800種類 ともいわれ、豆の品種や焙煎または保管方法により変化します。
また、匂いに対する快・不快といった感覚には、大きな個人差があります。「深煎りコーヒーの香りが好み」「酸味の強いコーヒーの香りが苦手」など、コーヒーの香りは豆を選ぶ時の基準にもなるでしょう。
リラックスor集中力アップ?豆によって異なるコーヒーアロマの効果
コーヒーに含まれるカフェインは眠気を覚まし、集中力を高める成分です。しかし過度な摂取により、胃痛を引き起こしてしまうケースも少なくありません。一方、脳波分析によるコーヒーアロマの実験では、コーヒーを飲むことなく香りだけで脳機能に変化を与えることが解明されました。
実験では、ブラジルサントス・グァテマラ・ブルーマウンテン・モカマタリ・マンデリン・ハワイコナの6種類を選び、それぞれの香りによる脳波の変化を測定しました。
リラックス時に現れるアルファ波と、集中力アップ時に現れるP300と呼ばれる脳波の評価によると、アルファ波が最も多く現れたのはグァテマラとブルーマウンテンです。一方、ブラジルサントスやマンデリン、ハワイコナはP300が多く認められました。
つまりコーヒーそのものを飲まなくても、その香りだけでリラックスや集中力アップ効果があるといえます。コーヒーを飲みすぎてしまう方は、目的に合わせてコーヒー豆をアロマ代わりにしてみてはいかがでしょうか。
香りの歴史とコーヒーアロマの古代伝説
没薬(もつやく)や乳香など「香り」の歴史は紀元前にまでさかのぼります。洋の東西を問わず宗教儀式や王侯貴族のみが使用する、庶民には手の届かない贅沢品とされていました。
やがて19世紀に入り有機化学の発展にともない、香料の世界は瞬く間に大きく広がります。現在では贅沢品としての「香り」だけでなく、QOLを向上させる「アロマ」として、私たちの生活に彩りを与えてくれています。
コーヒーアロマにおいては、13世紀からの伝説が語られています。現在のイエメンであるモカの王女に恋心を抱き、王に追放された祈祷師シーク・オマール。山の中を彷徨っていると赤い実を食べる鳥を目にしました。オマールはその実を煮て口に含むと、うっとりとするような香りとともに元気を取り戻します。山をおりたオマールは、コーヒーの効能により人々を救い、やがてモカの守護聖人として崇敬されるようになったと語り継がれています。
香りを制する者は自律神経を制する⁉コーヒーアロマがもたらす美肌&健康効果
海外ではハーブや果実などの精油を利用したアロマテラピー (芳香療法)が盛んです。看護領域にも取り入れられ、手術後の緊張や不安の緩和、睡眠薬を用いる患者の薬剤減量など多くの有効性が認められています。
国内においても、香りによる自律神経への作用が多く研究されています。自律神経は血圧や体温調節・代謝など、生命活動を維持する役割を担う神経です。ストレスなどによる自律神経の乱れは、肌荒れや頭痛・便秘など、さまざまな不調を引き起こすでしょう。
オレンジスィートやラベンダーの香りは交感神経を抑え、副交感神経を優位にすることで、メンタルだけでなく身体的にもリラックス効果をもたらすと評価されています。一方、ブラジルサントスやマンデリンのコーヒーアロマのように、交感神経を刺激しリフレッシュ効果がある香りの研究結果も少なくありません。シーンに合わせた香りを選び、心と体のセルフケアをおこなってみてはいかがでしょうか。
挽きたてのコーヒーとお気に入りのアロマで過ごすひと時を
HARIO NETSHOPでは手軽にアロマを楽しめる「ローリングアロマボール」が販売されています。丸いブナの木にお好みのアロマを数滴。しっくりと手に馴染む有田焼きの器の中で優しく転がすと、心地よい音とともに香りが広がります。
ローリングアロマボール 商品ページ:https://shop.hariocorp.co.jp/products/rab-ms
朝は挽きたてのコーヒーアロマでスッキリと目を覚まし、夜はローリングアロマボールで安らぎタイム…。コーヒーと香りを上手に取り入れ、ポジティブな心と若々しく健康的な体を目指しましょう。
株式会社MEDITOWA 美容医療ライター 城戸香
■参考文献
- 島津アプリケーションノート No.18
- 全日本コーヒー協会
- 香りが脳機能に与える効果(第17回生命情報科学シンポジウム) 古賀良彦