コーヒーは私たちの心をサポートしてくれる飲み物です。
「なんだかやる気が出ない……」というときにコーヒーを飲んで、気合いを入れる方もいるでしょう。一杯のコーヒーの香りやぬくもりが、ほっと心をゆるめてくれることもあります。
近年では、心の病気である「うつ病」になるリスクを軽減する効果も注目されています。
そこで今回は、コーヒーがうつ病に与える影響について、これまでに発表された研究データをもとにお話しします。
(1)「コーヒーがうつ病のリスクを軽減する」という研究結果は多い
「コーヒーがうつ病のリスクを軽減する」という結果は、多くの論文で示されています。
そのなかでも有名な論文として、約5万人の女性看護師を対象とした「The Nurse’s Health Study(NHS)」(*1)が挙げられます。2011年に発表されたこの論文では、1日にコーヒーを2杯以上飲む人の方が1日0~1杯しか飲まない人よりも、うつ病になるリスクが10~20%低くなることが明らかになりました。
もちろん、男性を対象とした研究(*2)でも、1日に6杯以上のコーヒーを飲む人は、まったくコーヒーを飲まない人に比べて、うつ病になるリスクが約70%も軽減されていました。
(2)コーヒーがうつ病リスクを軽減するのはなぜ?
コーヒーがうつ病リスクを軽減する理由はまだわかっていませんが、コーヒー豆に含まれる「成分」や、コーヒー特有の「香り」にヒントがあると考えられています。
■コーヒー豆の成分は気分や疲労の改善に役立つ
うつ病の代表的な症状が「抑うつ気分」と呼ばれるものです。気分がしずみ、何もかもがむなしく感じられてしまいます。
また、あまり知られていませんが、うつ病になると身体にも症状が現れます。特に「疲れやすさ」や「注意力・集中力の低下」に悩む人は少なくありません。
コーヒー豆の成分である「カフェイン」や「クロロゲン酸」は、これらの症状を和らげるのではないかと考えられています。
例えば、カフェインやクロロゲン酸には気分を高める効果があり、抑うつ気分もコーヒーを飲むことで、軽減される可能性があります。また、カフェインには疲労感を和らげる効果や注意力・集中力を高める効果もあります。
そのため、コーヒーを飲む習慣があると、うつ病を悪化させないうちにケアできるのかもしれません。(*3)
■コーヒーの香りは心をリラックスさせる
コーヒーといえば、カップからふわっと立ちのぼる「香り」も大きな魅力です。「コーヒーの香りが大好き!」という方も多いでしょう。
実はコーヒーの香りには、心をリラックスさせる効果があります。(*4)また、コーヒーを飲まなくても、香りを嗅ぐだけで、集中力が向上するという報告もあります。(*5)
そのため、よくコーヒーを飲む人は、その香りを嗅ぐことでリラックスしやすいことに加え、うつ病で下がってしまう集中力を改善できているのかもしれません。
コーヒーの飲み過ぎにはデメリットもある!
ここまで読んで「コーヒーをたくさん飲もう!」と考えた方もいるかもしれません。でも、コーヒーを飲み過ぎると、かえって心と身体によくない影響を及ぼすこともあるのです。
安全にコーヒーを楽しむために、飲み過ぎたときのデメリットも確認しておきましょう。
■大量のカフェインは心の調子を崩す
カフェインを1日に400~500mg摂取すると、不安やイライラなどネガティブな感情が引き起こされることがわかっています。(*6)
コーヒー1杯に含まれるカフェインは約60~80mgといわれているので、1日に5杯以上飲むとリスクが高まるということです。
せっかくうつ病のリスクを下げるためにコーヒーを飲んでいるのに、心の調子を崩してしまっては本末転倒です。
■コーヒーの飲み過ぎは身体の不調にもつながる
コーヒーの飲み過ぎは、めまい・吐き気・不眠・下痢といった身体の不調をもたらす可能性があります。
また、カフェインにはカルシウムの排出を促す働きもあるため、普段あまりカルシウムをとらない人がコーヒーを大量に飲み続けると「骨粗しょう症」を引き起こすことがあります。さらに、肝臓の機能が低下している人がコーヒーを飲み過ぎると「高血圧」になるリスクが高まることも指摘されています。(*7)
心にとっても、身体にとっても「ほどほど」の量を飲むのが良さそうです。
さいごに
「うつ病を防ぐため」という義務感で一生懸命にコーヒーを飲んでも、あまりリラックスはできません。むしろ、ストレスが溜まってしまうでしょう。
コーヒーは、薬のように「この量を飲めば効果がある/ない」がはっきりしているわけでもありませんから、無理して飲んでも効果が出ないこともあります。
「私は1日に1杯がちょうどいい」「私は香りだけ楽しみたい」など、自分の心と身体に適した楽しみ方を見つけ、ゆったりとコーヒーに向き合うのがおすすめです。
参考文献
- *1 Lucas, M., Mirzaei, F., Pan, A. et al. (2011) Coffee, caffeine, and risk of depression among women. Arch. Intern. Med. 171, 1571-1578.
- *2 Ruusunen, A., Lehto, S.M., Tolmunen, T. et al. (2010) Coffee, tea and caffeine intake and the risk of severe depression in middle-aged Finnish men: The Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study. Public Health Nutr. 13, 1215-1220.
- *3 栗原久(2016)コーヒー/カフェイン摂取と生活―カフェインの精神運動刺激作用と行動遂行― 東京福祉大学・大学院紀要 7(1) pp5-17.
- *4 古賀良彦(2004)香りが脳機能に与える効果 国際生命情報科学会誌 22 (1) pp179-186.
- *5 北見由奈・奈良英侃(2020)コーヒーの香りが集中度としての情報処理能力に与える効果 日本健康心理学会第33回記念大会プログラム
- *6 栗原久(2016)日常生活の中におけるカフェイン摂取-作用機序と安全性評価― 東京福祉大学・大学院紀要 6(2) pp109-125.
- *7 食品安全委員会(2018)食品中のカフェイン ファクトシート