2024年10月9日~12日、東京ビッグサイトで今年もSCAJ 2024(正式名称はSCAJ ワールド スペシャルティコーヒー カンファレンス アンド エキシビション 2024)が開催されました。日本スペシャルティコーヒー協会が2005年から毎年開催しているBtoB展示会ですが、世界中のコーヒー関連の商品やビジネスモデル、これから日本での流通を希望する海外の産地などを一望できるので、業界関係者だけでなく、日本中のコーヒー好きも集まる、コーヒーのお祭りです。
HARIOも大きなブースを設置して参加。今年は、「浸漬式ドリッパースイッチ」の坂口憲二氏とのコラボレーション・モデル「コーヒードリッパースイッチサンライズ」のお披露目も行われていました。スイッチの切り替えで、ドリップ式のV60ドリッパーにも、コーヒーをお湯に浸して淹れる浸潤式のドリッパーとしても使える「浸漬式ドリッパースイッチ」は、豆の個性に応じた淹れ方が楽しめる名品なのですが、今回、それを有田焼で製作。このところ新しい技術の開発にも積極的に取り組む有田焼ならではの美しいグラデーションが、日の出のビーチと海岸線を見事に表現した、磁器作品としての完成度も高いドリッパーです。
ブースでは、このドリッパーを使い、浸潤式とドリップ式を前半と後半で使い分けるハイブリッドな淹れ方で試飲できるようになっていました。柔らかい風味なのに切れ味の良い風味は、このドリッパーの実力を十分に理解できるものでした。
ハリオ商事の注目商品も二つほど紹介しておきます。ひとつは、耐熱ガラスの持ちやすく洗いやすいサイズのグラスに革製のスリーブを組み合わせた「ゼブラングラス」。200mlタイプと、400mlタイプの二種類あるのですが、個人的には200mlタイプが気に入っています。「V60フラットドリッパー 01 Zebrang」を直接載せて熱々のコーヒーを淹れるのにぴったりのグラスだと思っています。
もう一つは「真空二重マグコーヒーメーカー Zebrang」です。目が細かい茶こしが内蔵されていて、コーヒーの粉を入れてお湯を注げば、浸潤式のコーヒーを淹れることができます。もちろん、紅茶や緑茶も淹れられますし、水出し用のカップとしても使えるのが気に入っているポイント。保温・保冷性能はもちろん、冷たい飲みものをコースター無しで机に置けるのも真空二重構造のカップの魅力です。
今回のSCAJは、機器よりも圧倒的にコーヒー豆の展示が充実していました。そのほとんどのブースで試飲が可能でしたが、中でも印象に残ったのは、多くのブースでゲイシャ種をアピールしていることと、嫌気性発酵(アナエロビック)によるコーヒー豆の果実味を強調したフルーティーな仕上げを、多くの農園が行っていたことです。
ゲイシャ種では、メキシコのブースで頂いたナチュラル・ゲイシャのコーヒーがとてもおいしかったのが記憶に残っています。また、UCCの「BLACK無糖」30周年で限定販売されている「BLACK無糖 ゲイシャブレンド リキャップ缶」の缶コーヒーとは思えない豊かな風味も見事でした。同じく、UCCのブースで行われた、食べるコーヒー「YOINED」の嫌気性発酵豆を使った特別ヴァージョンの試食が興味深く、フルーティーであることとコーヒーならではのコクの両立のひとつの正解を見たような気がしました。
嫌気性発酵の豆の価格がかなり安定して買いやすくなっていることが分かったのも、今回のSCAJの収穫でした。特に、エチオピアコーヒー専門店、nano coffee roasterの「バンコ・タラトゥ」は、フルーティーでありながらも、コーヒーらしさがしっかりしていて、尚且つ個性的という、面白いバランス。エチオピアでは、Hey Coffeeの「エチオピア・ダンシェ」の、これぞエチオピア、と思わせる、桃のような味わいがとても好みでした。そして、コーヒーでお腹がいっぱいになって、苦しくなって、休憩しながら帰ることになるのは、例年通りの私です。
<執筆者>
納富廉邦(のうとみやすくに)
フリーライター。学生時代からライターとして様々なジャンルの原稿を、雑誌、単行本、新聞、Webなどに執筆。テレビ「マツコの知らない世界」「嵐にしやがれ」他へ出演、ラジオ、講演、製品プロデュースなども手掛ける。お茶の本「drinkin’ cha」、コーヒーの本「珈琲は飲みものです」、「やかんの本」、「二十一世紀の名品小物101」、「40歳からのハローギター」など著書多数。朝日新聞、アートコレクターズ、ITmedia、AllAbout、日経クロストレンドなどに連載中。