コーヒー豆の専門店に行くと、良い香りとともに大きな焙煎機が回っている光景を目にすることはありませんか。
この焙煎機を使って生豆をローストしているスペシャリストが焙煎士です。
同じ豆でも焙煎の具合によって味が大きく変わることもあるコーヒーですが、最高の味を出すための焙煎士になるにはどうしたら良いのでしょうか。
今回は、コーヒーの決め手になる焙煎と焙煎士について解説します。
焙煎士って?
コーヒー豆と真摯に向き合っうことで、その豆に合ったローストを行い素晴らしいコーヒーを作り出してくれるのが「焙煎士」です。
スペシャルなコーヒーを口にするまでには、さまざまな工程がありますが、その中でも焙煎は、特に職人のようなイメージがあります。
焙煎とは、そのままでは飲むことができないコーヒーの生豆に熱を加えて乾煎りすることで、一般的に「コーヒー豆」として販売される豆に仕上げていく作業です。
「乾煎りするだけなら簡単では」と思ってしまいますが、焙煎は、ただ乾煎りすれば良いというわけではありません。
過熱方法や加熱加減だけでなく、その豆の個性、気温なども大きく影響するので、焙煎する人の腕前はとても重要なものです。
焙煎士は、特に資格が必要な職業ではありませんが、コーヒー豆の個性を熟知し、そのコーヒー豆にとって最高の味を引き出すことができる職人のような仕事であるといえるでしょう。
焙煎士になるには?
焙煎士になるための筆記や実技のテスト、資格は、必要ありません。極端にいってしまうと誰でも焙煎士を名乗ることはできるのです。
しかし、焙煎士は、そのコーヒー豆の個性や焙煎する日の気候、焙煎機の状態などを把握して焙煎を行う必要があります。
また、焙煎する前には、コーヒー豆を目視でチェックして異物や欠陥豆をハンドピックすることもあるので、とても根気がいる仕事といえます。
最近では、焙煎機を購入すると、その焙煎機に合った焙煎方法を教えてくれることもメーカーもありませんが、優れた焙煎士になるには、独学で勉強していかなければなりません。
勉強方法は、「理想とする焙煎士のいる店に通って修行をする」「本やネットで調べる」「焙煎士の行っているセミナーに参加する」などがあります。
いずれにしても、自分で焙煎するときは、その日の気候条件や焙煎機、豆の状態、焙煎温度、時間、そのときのコーヒーの味などをこまめに記録して、いつでもその豆の特徴を活かしたコーヒーの味が再現できるようにベストな焙煎方法を見つけ出すことが大切になります。
優れた焙煎士になるには、かなりの勉強と努力、訓練、正確さが必要になってくるでしょう。
焙煎士に大切なこと
焙煎方法やノウハウだけがわかっていても、優れた焙煎士になれるとは限りません。
焙煎士にとって大切なことは、コーヒーは嗜好品であるということを念頭に、収穫される地域によって違う豆の特徴を理解して、もっとも香りが高く味が引き立つように焙煎することです。
そのためには、そのコーヒーの持つイメージを意識できる感性や焙煎機の火力をコントロールし、正確に再現できる技術力を身に付ける必要があります。
このように書くと、とても難しい仕事のように思えますが、「理想のコーヒー」を追求できる根気と、コーヒー愛が一番大切なことといえます。
焙煎ってどうやるの?
一言で焙煎といっても、どのように行うのかイメージしにくいのではないでしょうか。ここでは、簡単に焙煎士が行っている焙煎方法を紹介します。
まず、焙煎機には、バーナーの火が直接コーヒー豆に当たる直火式と熱せられたドラムと空気で焙煎する半熱風式、熱せられた空気をドラム内に送り込んで焙煎する熱風式があります。
直火式は、「攪拌が弱いと煎りムラができてしまうが、熱伝導が良くコーヒーらしい風味を感じることができる」半熱風式の場合は、「バランス良く煎ることはできるが、その分、個性が薄れてしまうこともある」熱風式は、「煎りムラが少なくふっくらとした豆に仕上がるが、その豆の持っている風味や個性が弱くなる」などの特徴はあります。
しかし、どのタイプの焙煎機でも、しっかりとした理論と経験に基づいて焙煎すれば問題はないでしょう。
そして、焙煎をするときのポイントは、三つあります。
一つ目は、「豆の見た目」です。コーヒーの生豆は、薄い緑や白っぽい色をしていますが、焙煎していくと黄色からオレンジ、茶色、黒色と変化していきます。この色の変化で豆の状況を知ることができます。
二つ目のポイントは、「音」です。豆は煎ると爆ぜる音が聞こえますが、爆ぜた回数でロースト具合を判断することができます。例えば、1ハゼの場合は、ミディアムロースト、2ハゼが始まったらシティローストなどです。
最後のポイントは、「香り」です。コーヒー豆の水抜きをしている段階では、少し生臭さを感じますが、1ハゼの頃から香りの質が変わってコーヒーらしい香ばしさが出てきます。この香りを重視して豆本来の「香り」が出てくると順調に焙煎が進んでいると判断します。
もしかしたら、焙煎は感覚で行っていると思われてしまいますが、生豆の保管状況や、焙煎全体のプロセスを逆算して序盤、中盤、終盤の温度、温度上昇のコントロール、焙煎前と後の水分変化、気温などが全て複雑に絡み合って理想の一杯を作るために焙煎をしていきます。
焙煎は、これらの反応を予測して仕上がりをイメージし、どこを修正するべきか仮説を立ててローストプロセスを作っていくため、科学的なデータと経験が大切になってきます。
焙煎士に感謝!
いつものコーヒーショップで、当然のようにお気に入りのコーヒー粉を買う人もいれば、スタッフにコーヒーの特徴を聞きながら選ぶ人もいます。
また、焙煎士から「このコーヒーも美味しいですよ」とおすすめしてもらうこともあるでしょう。
よそのコーヒーショップで買ったコーヒー豆が「同じコーヒーなのに、いつもと味が違う」と感じて、また、いつもの店で買うようになるかもしれません。逆に「こっちの味の方が好み」と思う場合もあるでしょう。
このように、コーヒーは、焙煎次第で同じ豆でも味が大きく変わることもあります。
いずれにしても、いつも自宅やお店で美味しいコーヒーが飲めるのは、焙煎士がコーヒー豆の特徴や焙煎方法を熟知して最高の仕事をしてくれているからです。
陰の立て役者である焙煎士に感謝してコーヒーを飲んでみるのも良いかもしれませんね。