6〜8月は梅雨や台風などで天気が崩れやすい時期。この時期に片頭痛をはじめ、様々な痛みを訴える人は少なくありません。このように天気に伴って生じる痛みは「天気痛」と呼ばれています。
天気痛はコーヒーを飲むと和らぐと言われる一方で、悪化するとの意見もあり、「どうすればいいの?」と困ってしまう人もいるでしょう。そこで今回は、コーヒーと天気痛の関係や効果について詳しく解説します。
天気痛はなぜ起こる?
「天気痛」の発生のメカニズムは未だ解明されていませんが、次のような仮説に基づき、検証されています。
1.血管説
一般的に天気が崩れるときは「低気圧」になることが知られています。雨は雲によってもたらされますが、雲は上昇気流が作り上げます。上昇気流が起こると空気は上へ上へと流れていくので、私たちにかかる気圧は下がっていきます。
身体にかかる気圧が下がると、血管が普段より拡張します。その拡張した血管が痛覚神経を圧迫して、片頭痛を引き起こすと考えるのが血管説です。(*1)
2.神経説
気圧などの変化をきっかけに、脳の大脳皮質の一部で「皮質拡延性抑制(CSD)」と呼ばれる電位変化が生じ、波紋のように広がっていきます。それが脳の血管や神経に影響を及ぼし、最終的には顔の痛覚を司る三叉神経に行きついて痛みを生むと考えるのが神経説です。(*2)
3.三叉神経血管説
天気が崩れたときの気圧・湿度・気温の変化などの刺激によって、先ほどもご紹介した「三叉神経」が興奮し、血管の拡張や炎症を引き起こす神経伝達物質を放出した結果、片頭痛を引き起こすと考えるのが三叉神経血管説です。(*2)
4.痛覚の過敏さ
天気痛を感じる人は、低気圧になると興奮や緊張を司る「交感神経」が過剰に働き、痛覚が過敏になるという研究結果もあります。通常なら痛みとは感じない刺激さえも、痛みとして受け取ってしまうことがあるのです。(*3)
低気圧頭痛にコーヒーは効果的?
低気圧による天気痛にコーヒーが効果的という説があります。これは本当なのでしょうか。
■カフェインは片頭痛を和らげる
低気圧による血管の拡張によって「片頭痛」が引き起こされている場合、カフェインが痛みを和らげる可能性があります。カフェインには血管を収縮させる働きがあるからです。
頭痛治療ガイドライン(*4)にも、カフェインを配合した治療薬が片頭痛に効果を示していることが記載されていますし、コーヒーに関しても、片頭痛への効果を示す論文が発表されています。(*5)
■カフェインは適切な治療と併用した方が効果的
注意したいのは「カフェイン単独」での片頭痛に対する効果を示す研究はいくつか報告されているものの、「医学的に効果がある」と言えるほどに十分な検討はまだなされていないという点です。(*6)
酷い天気痛に悩まされているときは、コーヒーで痛みを和らげようとするよりも、適切な治療を受けながら、薬とコーヒーを上手に併用した方が効果を得やすいでしょう。
■コーヒーの香りでリラックスするのもOK
コーヒーの香りには、リラックス効果があることもわかっています。(*7)
交感神経が過剰に働き、痛覚が過敏になっている場合は、コーヒーの香りをゆったりと楽しみ、心と身体を落ち着けてみましょう。
コーヒーの飲み過ぎは不調を引き起こすので注意!
カフェインを含んだコーヒーは、天気痛を緩和する効果が期待できるものの、あまり大量に摂取していると、かえって不調を引き起こします。
ここでは、カフェインの摂りすぎで生じる症状をご紹介します。
カフェイン離脱頭痛
カフェイン離脱頭痛とは、大量のカフェインを摂取していた人が、カフェインを断とうとすると起こる頭痛です。
先ほどもご紹介した通り、カフェインには血管を収縮させる働きがあります。カフェインを摂取し続けている場合、カフェインによって常に血管が収縮した状態になります。しかし、何らかの事情でカフェインが摂取できなくなると、収縮していた血管が拡張し、頭痛を引き起こします。
最初は片頭痛を抑える方法としてカフェインを摂取していたはずが、いつしかカフェインが切れると頭痛が起きる事態に陥ってしまうのです。
めまい・吐き気を引き起こすことも
大量のカフェインを摂取すると、めまいや吐き気、不眠などの身体的な不調に加え、不安やイライラなど心の不調も引き起こすことがあります。(*8)
天気痛を改善したいからと言って、コーヒーを大量に摂取するのは控えましょう。
日本ではカフェイン摂取量に関してはっきりとした基準は示されていませんが、日本頭痛学会のガイドライン(*6)では、「200mg/日以上の運用は注意が必要」とされています。コーヒー1杯には60mg程度のカフェインが入っていますから、1日に3杯程度に留めるのが良いでしょう。
もちろん、カフェインへの反応は人によって異なります。自分の心身の調子を見ながら飲むことが大切です。
参考文献
- *1 清水利彦・柴田護・鈴木則宏(2011)片頭痛の病態研究および治療に関する最近の知見 臨床神経学 51(2) pp103-108.
- *2 永田栄一郎(2020)片頭痛の病態に関する最新の知見 臨床神経学 60(1) pp20-26.
- *3 佐藤純(2015)気象変化と痛み 脊髄外科 29(2) pp153-156.
- *4 日本神経学会治療ガイドラインAd Hoc委員会・頭痛担当小委員会(2006)日本神経学会治療ガイドライン「頭痛治療ガイドライン」(Ⅱ.片頭痛 Migraine) 明日の臨床 18(2) pp55-60.
- *5 Yuan, S., Daghlas, I., & Larsson, S. C. (2022). Alcohol, coffee consumption, and smoking in relation to migraine: a bidirectional Mendelian randomization study. Pain, 163(2), e342–e348.
- *6 日本頭痛学会(2021)頭痛の診療ガイドライン2021
- *7 古賀良彦(2004)香りが脳機能に与える効果 国際生命情報科学会誌 22 (1) pp179-186.
- *8 食品安全委員会(2018)食品中のカフェイン ファクトシート