現在、ペーパードリップはハンドドリップのなかで最もポピュラーな抽出方法ですが、紙製ではなく、布製のフィルターを用いてコーヒーを入れるネルドリップをご存知でしょうか。芳醇な香りとまろやかなボディ感を愉しめるのは、ネルドリップがコーヒー愛好家に愛されている理由。
今回はその「最高の抽出方法」といわれる、ネルドリップについての知識、必要な器具や入れ方、入れるコツまでをご紹介します。
■ネルドリップとは
ネルドリップとは、フランネルという布製のフィルターを用いてコーヒーを抽出する、歴史のある抽出方法。より良い舌触りが特徴で、『最もおいしい入れ方』と言われています。
ペーパードリップと同様なプロセスですが、フィルターの素材が変わるため、味わいの特徴も変わります。ネルフィルターの隙間は紙より大きいため、コーヒーオイルと成分がダ通り抜けやすく、より飲みやすく、滑らかな口当たりが特徴。深煎りの豆を使うと、より豊かなコクを味わえます。
一方、ペーパードリップの場合、コーヒーオイルと微粉がペーパーに吸収されるため、より「クリア」、「スッキリ」した味わいが特徴です。
①ネルドリップの特徴
・繰り返し使用が可能
使い捨てのペーパーフィルターと違い、布製のネルフィルターを使用するため、抽出後にしっかり洗えば約30回の使用ができ、より経済的に使えます。
繰り返して使用できますが、回数が増えるとコーヒーの微粉や脂肪がフィルターに付着し、目詰まりになるためフィルターの交換が必要です。
・コーヒー成分が抽出されやすい
ネルフィルターの目が粗いため、コーヒー成分が通り抜けやすく、コーヒーオイルも抽出されます。滑らかな口当たりがあり、コーヒー豆の風味をダイレクトに感じられます。
また、ネルフィルターは袋状のため、コーヒー粉が袋の中央に寄り、コーヒー粉の層が厚くなります。そのため、抽出の際にお湯がゆっくりコーヒー層を透過するためコクがあり、濃厚なコーヒーを入れられます。
・ネルフィルターは両面も使える
ネルは片面が起毛しているため、ネルフィルターを使用する場合「起毛面をどちらにセットして使えばいいですか」という質問をうけます。
結論からいえば、両面とも使えます。内側と外側にセットしても、できたコーヒーの味について特に明らかな違いはありません。
起毛面を内側にすると、コーヒー微粉を捉えるという利点がありますが、微粉が繊維に付着するため、洗うのが大変で手間がかかります。
起毛面を外側にすると、洗いやすくなりますが、微粉を捉える力が下がってしまいます。
内側と外側の決まりはないため、よくネルドリップでコーヒーを入れる方は、起毛面を外側にセットしたほうが手間がかからないためおすすめです。
■入れるための準備
①器具を揃える
まろやかなネルドリップコーヒーを自宅で味わうために、不可欠な器具をチェックしていきましょう。
【準備するもの】
- ネルドリップ専用サーバー
- ネルフィルター
- ハンドル(ネルフィルターを取り付ける用)
- ケトル
- スケール
- メジャースプーン
- カップ(&ソーサー)
- お好みのコーヒー(コーヒー豆の場合、コーヒーミルも必要)
②使用するコーヒー粉と使用量
コーヒー1杯分(約100cc)にあたり、12gのコーヒーが適量。挽き目は中挽きがおすすめですが、好みによって調整してください。豆の種類と焙煎度合は自分の好みで選んで問題ありません。なお、コーヒーミルを持っていない方は、豆を購入したお店で挽いて粉にしてもらいましょう。
■入れ方
店やバリスタによって抽出比率はそれぞれ違いますが、今回はHARIOのドリップポット・ウッドネックを使用したおすすめの入れ方をご紹介します。
1.フィルターを用意する
まずはネルフィルターをハンドルにセットします。
新品のネルフィルターは、お湯で20分を煮て、ネルについている糊(のり)を除去してから使用します。すでに使用しているネルフィルターはお湯を通して温めます。
お湯を通したネルフィルターはしっかり絞って水気を取ってからハンドルにセットします。
2.お湯を沸かし、器具を温める
ケトルに必要な水量を入れ、沸かします(140ml×人数)。なお、専用サーバー、カップなどの器具を温めるため、少し多めの湯量を用意しましょう。
抽出したコーヒー液の温度を下げず、おいしく香ばしいコーヒーを愉しめるように、お湯でコーヒー器具を温めておきます。
3.フィルターを専用サーバーにのせ、コーヒー粉を入れる
お湯通ししたお湯を捨ててから、ネルフィルターを専用サーバーにのせて、コーヒー粉を入れ、平らにします。
4.蒸らし
コーヒーの成分をしっかり引き出すため、蒸らしを行います。 使用したコーヒー粉量の2倍のお湯を粉の中心から全体が湿る程度をゆっくり注ぎ、30秒を待って蒸らします。(10g:20cc)
5.お湯を注いで抽出
ペーパードリップと同様、残ったお湯を3回に分けて注ぎます。(1回の湯量は粉量の4倍)(10g:40cc)
注ぐ際に、お湯がネルフィルターにかからないように、コーヒー粉の中心にうず状に注いでください。
また、抽出時間を長くすると、渋くて苦くなるので、3分以内での抽出がおすすめです。
6.温めたカップに注ぐ
コーヒー液が落ち切ったら、温めたカップにコーヒーを注いで出来上がりです。
7.ネルフィルターの取り扱い
使ったネルフィルターをしっかり流水で洗ってください。洗剤を使用するとその匂いが布に移ってしまうため、洗剤の使用は避けましょう。
しっかりと成分を取り除きたい場合は煮沸するのがおすすめです。
水洗いしてから、水を入れた容器に入れて冷蔵庫で保存します。次回使う時は、お湯をかけて温めてから使用します。
■おいしく入れるコツ
ネルドリップが愛されている理由の一つはペーパードリップよりまろやかな味わいと滑らかな口当たりを愉しめること。自宅でより本格的な味を楽しむために、知っておきたい3つのポイントをご紹介します。
・蒸らし
蒸らしは、ハンドドリップでおいしいコーヒーを入れるため一番重要なポイント。
コーヒー生豆を焙煎すると、豆の内部にガスが生じます。このガスを放出しないままコーヒーを抽出すると、コーヒー成分の抽出は不完全になり、薄くてバランスが取れないコーヒーになってしまいます。
ガスを放出すると、コーヒーとお湯がなじみやすく、コーヒーの成分も引き出しやすくなります。そのため、蒸らしの作業はしっかりと行うようにしましょう。
・水気をしっかり切る
抽出温度が下がらないように、ネルフィルターの水気を切りましょう。
抽出の際に、お湯の温度が下がると、抽出効率が悪くなり、不完全な抽出になってしまいます。コーヒーの香りと味わいに悪影響を与えます。
お湯を通したネルフィルターをしっかり絞って、タオルで挟んでたたきましょう。
・フィルターの手入れをしっかり
新品のネルフィルターは、布に付着している糊やにおいがあるため、使用する前にコーヒー粉を入れたお湯で煮沸し、コーヒーと馴染みやすくさせます。
使用後のネルフィルターは、必ず流水で洗ってから水を入れた容器で、冷蔵庫に保存します。コーヒーオイルが付着したまま乾かすと、油分が酸化して嫌なにおいがし、そのままコーヒーを入れると、味に悪影響を及ぼしてしまいます。なお、1日1回の水交換がおすすめ。
コーヒーの味わいに影響しないよう、使用後のネルフィルターはすぐに流水でしっかり洗い、水を入れた容器で、冷蔵庫に保存しましょう。
■最後に
コーヒーオイルが抽出され、ペーパードリップのないボディ感と滑らかな口当たりを愉しめるうえ、微粉もしっかり捉えるのは、布製のネルフィルターを使用するネルドリップの特徴です。
ペーパードリップに比べて、少し手間がかかりますが、ネルフィルターの手入れ方法を覚えれば、初心者でも簡単にコーヒーを入れられ、より飲みやすい口当たりを楽しめます。
ぜひこの記事に参考し「最も美味しい入れ方」といわれるネルドリップで、今までと違うコーヒータイムを楽しんでください。